ばばぶろぐ

読書感想を綴ったり趣味の福袋を楽しんだりするブログ。 まとめサイト等への転載はお断りします。

S・J・ベネット「エリザベス女王の事件簿 ウィンザー城の殺人」感想

 エリザベス女王が登場人物(※主人公)として登場する、という日本では俄かに信じがたい小説。
(日本だと何となく不敬罪?的な感覚を覚えるような)


エリザベス女王は英国民から深く敬愛されていたと思うけど、
日本の天皇陛下へのそれとは種類が違うんだなぁ、と興味深い。
ひとつの「開かれた王室」の表れなのかな。
この本は、一応タイトル通り序盤で死体は出るものの、舞台がウィンザー城ってこともあって

自分が割りとよく読む「残忍」とか「凄惨」とかとは無縁。

陛下は常に聡明かつチャーミングで、

部下のプライドを傷つけることなく、それと気付かせずに事態を解決へと導く思いやりに満ちた女性として描かれ、

フィリップ殿下との関係もとても素敵だ。「キャベツちゃん」てほんと可愛い。

「可愛い人」みたいな意味合いで、実際使われていたそうな。

そんなこんなで、ミステリっていうか、王室本(二次創作)的な雰囲気をそこはかとなく感じる。

エリザベス女王オバマプーチンメルケル等の

他国のリーダーたちについてどう思っているかも書かれているんだけど、

実在の人物が、実在の人物について内心どのように思っているのかなんてのを

フィクションで書いちゃうのはなかなかすごい気がする。

日本の安倍首相(当時)もチラッと名前が出てくるけれど、

オバマ大統領夫妻との扱いの差よ……。

女王陛下の国への献身、君主としての心構え、

ウィンザー城で働く人々への思い、なんかにじんわり心温まり、

「近ごろは防弾ガラス張りの窓の、安全性を強化した車輛が主流になっているが、そちらは首相が使えばよろしい。君主たる者、民衆のまえに姿をさらせないようでは、なんのための存在なのか。」(p.240)

なんてのは格好良い。

格好良いけど、どうしたって敵が出来る政治家は、

安全性を強化するしかないんだよね。

もしも大多数の国民に愛されていたとしても、

一人でも強烈な殺意を抱く者がいたらそれを防ぐのは難しいもの……。

フロスト警部が面白かったので、

翻訳の芹澤恵さんを勝手に信頼しているのもあるかもしれないが、面白かった。

次作も読もうと思う。