50万部を突破しているという大ヒット作。
何度も行われる戦闘シーンの描写も、しっかり読めるし、
自分が言うのもおこがましいが実によく出来た作品なのだが、
何がびっくりってこれがデビュー作なのである。
もっとエンタメ寄りの本なのかと思っていたのもあり、
何となく、タイトルがピンと来ないな?というだけの理由でスルーしそうになっていたが、
危なかった……読んでよかった。
主人公のセラフィマは、ドイツ軍により故郷の農村を襲われ、
親しんできた村人を惨殺され、凌辱され、母を殺される。
母親の死体を焼き払ってセラフィマを打ちのめし、狙撃兵へと育て上げるイリーナ。
同じくイリーナのもとで狙撃兵となるシャルロッタ、
そしてアヤ、ヤーナ、オリガ。
セラフィマの母を射殺したドイツの狙撃兵、イェーガー。
どのキャラクターも単なる賑やかし的脇役というのではなくて、
それぞれに信念をもって生き、戦いに臨んでいて、
それがセラフィマに少しずつ影響を与えていく。
ドイツ人(イェーガー)を、そしてイリーナを憎み、
彼らを殺すためだけに狙撃術を磨いていたセラフィマだが、
ロシア人もドイツ女性を戦利品として扱っていることを知り、
戦争が単純な善悪の図式によるものではなく、
戦争という場では"人間"はどこまでも残酷になり、
そこにドイツもロシアもないことを知る。。
ラスト、セラフィマが覚悟をもって捕虜となり乗り込むシーンからの
「やっぱそうなるよね」という予想していた展開と、
予想していた以上の驚愕の展開には目を見張るばかりだ。
特に好きなのはオリガとシャルロッタだったが、
占領下にあってドイツ兵と恋仲になるサンドラもキャラクターとしてとてもよかったと思う。
彼女の置かれた状況は、実際には上に書いたような単純な図式ではないのだが、
彼女のずるいところだったり強さだったり、
人間の感情のままならなさだったりが読んでいて印象深かった。
それにしても、これだけの大作を読んで、
こんな単語で評してよいのか躊躇われるところだが、
百合展開になろうとは思わなんだ。
まあしかし、戦争において男が女をどのように扱うのかを
目の当たりにしてきた彼女たちにとって、男と添い遂げようなんて発想は生まれようがないのかもしれず、
ある意味必然なのかもしれない。