ばばぶろぐ

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逢坂冬馬「同志少女よ、敵を撃て」感想(第11回アガサ・クリスティー賞受賞、2022年本屋大賞受賞)

ウクライナ侵攻の影響もあってか)昨年一番売れた本だそうで、
50万部を突破しているという大ヒット作。


何度も行われる戦闘シーンの描写も、しっかり読めるし、

自分が言うのもおこがましいが実によく出来た作品なのだが、

何がびっくりってこれがデビュー作なのである。

 

もっとエンタメ寄りの本なのかと思っていたのもあり、

何となく、タイトルがピンと来ないな?というだけの理由でスルーしそうになっていたが、

危なかった……読んでよかった。

 

主人公のセラフィマは、ドイツ軍により故郷の農村を襲われ、

親しんできた村人を惨殺され、凌辱され、母を殺される。

母親の死体を焼き払ってセラフィマを打ちのめし、狙撃兵へと育て上げるイリーナ。

同じくイリーナのもとで狙撃兵となるシャルロッタ、

そしてアヤ、ヤーナ、オリガ。

セラフィマの母を射殺したドイツの狙撃兵、イェーガー。

 

どのキャラクターも単なる賑やかし的脇役というのではなくて、

それぞれに信念をもって生き、戦いに臨んでいて、

それがセラフィマに少しずつ影響を与えていく。

 

ドイツ人(イェーガー)を、そしてイリーナを憎み、

彼らを殺すためだけに狙撃術を磨いていたセラフィマだが、

ロシア人もドイツ女性を戦利品として扱っていることを知り、

戦争が単純な善悪の図式によるものではなく、

戦争という場では"人間"はどこまでも残酷になり、

そこにドイツもロシアもないことを知る。。

 

ラスト、セラフィマが覚悟をもって捕虜となり乗り込むシーンからの

「やっぱそうなるよね」という予想していた展開と、

予想していた以上の驚愕の展開には目を見張るばかりだ。

 

特に好きなのはオリガとシャルロッタだったが、

占領下にあってドイツ兵と恋仲になるサンドラもキャラクターとしてとてもよかったと思う。

彼女の置かれた状況は、実際には上に書いたような単純な図式ではないのだが、

彼女のずるいところだったり強さだったり、

人間の感情のままならなさだったりが読んでいて印象深かった。

 

それにしても、これだけの大作を読んで、

こんな単語で評してよいのか躊躇われるところだが、

百合展開になろうとは思わなんだ。

まあしかし、戦争において男が女をどのように扱うのかを

目の当たりにしてきた彼女たちにとって、男と添い遂げようなんて発想は生まれようがないのかもしれず、

ある意味必然なのかもしれない。